病気・治療の解説Explanation

Bスポット治療

鼻咽腔治療(いわゆるBスポット治療・またはEAT)について

治療の根拠(エビデンス)について

Bスポット治療またはEAT(Epipharyngeal Abrasive Therapy)は当初は鼻咽腔治療といわれていたもので、鼻咽腔(上咽頭ともいう)をAbrasive(こする、擦過する)に刺激して、主に自律神経反射による治療効果を期待して実施されます。もちろん、鼻咽腔に明らかな炎症がある場合には、咽喉頭違和感、後鼻漏、耳管機能不全などによる局所症状改善の目的で実施されることもあります。しかし本来の治療目的は、難治性で他の方法ではなかなか改善効果を得られない全身的症状に対して行われます。例えば、最近話題となっている新型コロナウイルス感染症の後遺症としての頑固な全身倦怠感などの治療として採用されています。治療のエビデンスは必ずしも十分とは言えませんが、最近積み重ねられてきてはいます。しかしながら、正直なところやってみなければわからない治療法です。Bスポットは咽頭天蓋(上咽頭)のほぼ中央にあるくぼみで、胎生期に脳下垂体前葉が発生した部位(ラトケ嚢)に相当します。

治療の流れについて

1)問診
ほとんどの場合、患者さん自身がインターネットなどで情報を得て受診されます。したがって、治療を受けることを前提に受診されるわけですが、今までどのような症状について、どのような治療を受けてきたかを尋ねます。また、治療の目的を尋ねます。
2)鼻咽腔(上咽頭)の診察
ファイバースコープで鼻咽腔の状態を診察します。画像を見ながらその状態を説明します。
3)実際の治療法の説明と同意の形成
痛みを伴う治療であることと、その痛み自身が治療効果を得ることに必須であることを説明し、同意が得られたときのみ治療が行えます。したがって、最初の検査の時以外は、麻酔は一切しません。麻酔をして行う鼻咽腔治療は間違いです。
4)治療の頻度と期間について
頻度、期間ともに定説はありません。当院の場合、遠方から受診される方が多く、1週間に1回、10回をめどに受診することを勧めています。効果が得られない場合はそれで打ち切りとし、何らかの効果が自覚される場合はさらに続けることも可能です。効果はあくまでも自覚的に判断していただきます。

実際の治療について

近年出版されたある著書によると、前鼻孔から鼻の綿棒による薬剤塗布が示されていますが、これは本来鼻咽腔治療法にはありません。鼻の綿棒による薬剤塗布では、その範囲は極めて限られるからです。原則的には、綿花が固くまかれた咽頭卷綿子を使って、口蓋垂の裏側から上咽頭になるべく広範に薬剤を塗布するとともに、適切な力をもって擦過するのが本来の治療法です。炎症が強い場合には綿棒に血液が付着します。薬剤としては、伝統的に1%塩化亜鉛(クロルチンクZnCl2)溶液が使われています。この溶液が使われるのにも特別な根拠はありませんが、鼻咽腔治療を半世紀以上前に考案された、故堀口申作名誉教授が使われたからです。1%塩化亜鉛は市販されておらず、薬剤師、または医師自らが、固体の塩化亜鉛を計量し、注射用蒸留水で希釈して使います。

鼻咽腔治療がなぜ一般化しないか

当院でも、鼻咽腔治療をもとめて遠方より受診される方が後を絶ちません。この現象は、ごく近年になってからですが、ひとつの原因としては、あるドクターがこの治療を紹介する著書を発行されたこと、インターネットによる情報拡散があると考えられます。半世紀以上前から綿々と行われている治療にもかかわらずいまだに一般化しない理由としては次のような事実が挙げられます。まずは、耳鼻科的一般処置とは違う熟練と、特殊な技術を要する処置として、保険診療上認められていません。つまりは苦労してこの治療の理論と技術を習得しても、全く点数が付きません。次には、痛みを伴う治療であるため、医師と患者の信頼関係が十分でないと、トラブルを起こしやすいことなどが考えられます。鼻咽腔治療効果のエビデンスがさらに積み重ねられるとともに、どこの耳鼻科でも受けられる治療になることが望まれます。

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